Qualityの訳語として
「品質」と言う言葉があるが,この「品」と言う文字がQualityを理解するうえで障壁となっている.
「品」と言う文字から,「物品」と言う言葉が類推され,「品質」=製品の質という誤解が生まれている.
「品」と言う文字は
「品格」の「品」と理解した方が妥当であろう.
つまり対価を支払うことによって得られる付加価値の品格である.
製品を購入すると言うことは,ただ単に物を得ると言うことではない.その製品を所有すること,その製品を使用することにより得られる満足感が「品質」である.ここまで説明すれば,賢明な読者は「品質」とは物の質だけではなく,サービスにも「品質」があることが理解されるであろう.
その品質は,生産者側が決定するものではなく,購入者(市場)が決定するものである.
従って品質も,市場の成熟度とともに要求レベルが変化するはずである.
その製品・サービスが市場に行き渡っていないとき,消費者がその価値を認めれば
「魅力的品質」となる.魅力的品質を持った製品・サービスは,存在そのものが顧客満足要因となり,その物理的充足度が多少不足していても顧客満足が高い状態となる.
類似製品・サービスが出始め市場が成熟し始めると,製品・サービスの物理的優劣が顧客満足度に比例する状態となる.(一次比例品質)
更に製品・サービスが提供する付加価値が一般化すると,その付加価値は「当たり前品質」となり,物理的成熟度が不足すれば,直ちに顧客不満足となる.
つまり品質は市場の成熟度に伴い,「魅力的品質」→「一次比例品質」→「当たり前品質」と推移する.
例えば梱包を考えてみよう.
梱包そのものは,工場から顧客に渡るまでの製品保護機能しかないと考えれば,どんな物であってもかまわないはずである.その中の入っている製品が魅力的品質を提供するものであれば,梱包状態で顧客不満足が発生することはまれだ.
しかしその製品が提供する品質が一次比例品質,当たり前品質と推移すれば,梱包に何らかの欠損があれば,直ちに顧客不満足が発生する.
つまり,化粧箱の印刷がずれている,中に入っている取説が乱雑に畳まれている,などがあれば顧客の購買意欲は激減することになる.
ある照明器具の工場では,梱包箱に入れる取説を乱雑に畳んで詰め込んでいた.現場のリーダによると,きちんと畳むためには工数がかかるので,A4サイズの取説をまとめて四つ折りにし,そのまま箱に詰め込んでいると言う.
取説がちゃんと入っていると言うことは,言ってみれば「当たり前品質」である.それが乱雑に入っていると言うことは製品の品格を損ない,顧客不満足につながる.
ましてや照明器具は,明かりを提供する機能よりは,デザインなどの嗜好性によって購買意思決定がされる商品だ.梱包状態などの品格が低ければ顧客の購買意欲は低くなる.